当卓における第二紀ソル・シエール史

 当卓で独自に設定した、第二紀ソル・シエールの歴史の概略です。

~3345年

 第二紀初のレーヴァテイルが誕生してから100年以上、ソル・シエールはグラスノインフェリアの災禍から復興し、かつての栄華を取り戻しつつあった。
 レーヴァテイルと人間は良好な関係を保ち、シュレリアもまた十分に敬愛されていた。
 とはいえ当時から法整備はずさんで、レーヴァテイルに人権は無く、人間たちが調子に乗っていなかったから成り立っていた平穏だったともいえる。

 はじめにこれに翳りが差したのは、3320年前後、いわゆる『ジェネリックβ』の確立によって、民間にもレーヴァテイルが普及し始めたことによる。
 これまで公的事業に従事していたレーヴァテイルは、ちゃんとした労働契約の下で働き、衣食住も人並みに賄えていたが、民間の事業者はレーヴァテイルを奴隷扱いし始める。食事を与えない、怪我を放置する、十分な安全措置を取らず危険な仕事をさせる等。
 無論これにはレーヴァテイルたちの猛烈な抗議があり、ようやくレーヴァテイル関連の法律にメスが入った。それによりひとまず彼女らの生存権は回復された。

 しかし3341年、人間・レーヴァテイル比率が30%を超えた頃から、人々はレーヴァテイルを恐れ始める。
 やがて3345年、レーヴァテイルを狙った犯罪事件が複数発生し、両種族間に決定的な亀裂が生じた。それに対抗するように、レーヴァテイルによる詩魔法乱射事件も発生する。
 人間はレーヴァテイルに報復されることを恐れ、レーヴァテイルは人間からの迫害に絶望し、両種族間の関係は修復不能となる。

3345年~3368年

 時代は種族間の対立に傾きつつあったが、それを憂いた心ある者は、人間・レーヴァテイル間のわだかまりを解消させようと活動した。
 ある者はただ赦すことを訴え、ある者はレーヴァテイルに人権を認めよと訴えた。

 そんな時代の潮流を受け、3360年に『赫の天秤』が結成される。当初はいわゆるデモ団体で、レーヴァテイルの人権や、レーヴァテイルが被害者となった事件の再調査などを訴えた。
 その甲斐あって、レーヴァテイルを狙った犯罪の一部には、改めて裁きの鉄槌が下されたりもした。

 しかし3368年、穏健派活動家だったレーヴァテイル、ブランケット・ソラリスフィアが、演説中に狙撃され死亡する事件が発生。和解に傾きつつあった世論は一気に逆噴射する。
 やれ政府による白色テロだの、過激派との内ゲバの結果だのと言われたが、結局真相は不明となった(そして、不明に『された』ということでもある)。
 赫の天秤も内部分裂し、裏切り者によって隠れ家をリークされた結果、構成員の大半が殺害される。これにより、赫の天秤首魁・スカーは死亡したものとみなされた。
 他、複数のレーヴァテイル系団体が解散・壊滅の憂き目に遭う。

 当時、レーヴァテイルの身でありながら建築学の権威とされていたメイゼン・アルベルティは、再び増加したレーヴァテイル狙いの犯罪を憂い、自らの立場を利用してレーヴァテイルたちを助けようとする。
 だが政府に陥れられ、メイゼンは立場と権力を剥奪され禁錮されることとなる。抹消されずに済んだのは、人間社会におけるメイゼンの名声の高さのため(政権内部にもメイゼンの弟子がいた)。

3368年~3381年

 世間は人間至上主義の一色に染まり、右巻きの政権が続き始める。4期連続当選を果たした時の大統領、カイズ・ユリシスが高齢を理由に退陣した後も、彼の派閥の者が評議会を牛耳り続けた。
 テル族もまたとばっちりを受け、偏見と差別の目に晒され始める。しかし時の長老、オズバーナ・ロー・オーディアルは差別に対して断固抗議する態度を示し、テル族がレーヴァテイルほどの実害を受けることはなかった。

 レーヴァテイルをより効率的に使う為に、様々な手法が考案され始める。教育プログラムの見直し、『リフレッシュ』技術の確立、レーヴァテイルが人間に害を成した際の厳罰化など。実際にこれは成果を上げ、物言うレーヴァテイルや反乱を企てるレーヴァテイルは有意に減った。
 この辺りから、レーヴァテイルにどんな仕打ちをしても、レーヴァテイルを『戦争』に用いない限り、シュレリアは何も文句を言わないらしいということに、人間たちも気付き始める。

 禁錮されていたメイゼン・アルベルティは、3370年にシュレリアのお付きとして召し上げられる。
 名誉こそあるが、何ら実権を持たない地位への、事実上の左遷である。

 辛くも逃げ延びた赫の天秤の生き残り、スカー・アンジェラ・ビャッコの3名は、ホルス右翼翼端の銀牙山脈の洞窟を拠点に再起を図る。
 生存すら危うい状態だったが、テル族ムノフの青年・レイヤの加入を境に、状況は好転し始めた。
 地下を掘り抜いてアジトを構え、行き場のないレーヴァテイルたちを集めて、スカーらは少しずつ勢力を伸ばしていった。

 カイズ・ユリシスの息子、ヨナ・ユリシスもまた、この頃から頭角を現し始める(八割がた親の七光りだが)。
 幼少期から彼の『家族』として共に過ごしたレーヴァテイル・アイボリーの存在から、ペットとしてのレーヴァテイルブームが巻き起こった。3378年頃から、世論はレーヴァテイルの『愛護』を唱え始める。
 あくまで人間本位の愛護なので、実際に困窮しているレーヴァテイルたちの状況には、殆ど誰も見向きもしなかったが。

 3381年、『チェロム更生館事件』が発生。導力暴走事故から唯一生還したヨナ・ユリシスは、更生館運営に隠されていたいくつもの不正と汚職を暴き出した。
 これを機にヨナ・ユリシスは独自の慈善団体『紅の慈善財団』を立ち上げ、他組織とは一線を画したレーヴァテイル福祉を行なっていく。父親とも袂を分かち、本当の意味でのレーヴァテイル愛護を掲げていく。
 そして紅の慈善財団は、反政府組織赫の天秤と秘密裏に関係を持ち、レーヴァテイルのための社会を作るため暗躍していく。

3381年〜3387年

 ヨナ・ユリシスにるレーヴァテイル保護事業を、世間は初め微妙な態度で迎えた。
 だが心ある者は彼の元に集まり始め、レーヴァテイルを人として扱うことに賛意を表し始めた。
 ブランケット存命時ほどの声の大きさにはならなかったものの、ヨナを筆頭とした人レ平等論者はこの時存在感を発していた。

 紅の慈善財団という同盟相手を得た赫の天秤は、ヨナらの助力を得ながら急速に規模を拡大していく。
 暴力的・脅迫的な手段も交えながら、理不尽な目に遭ったレーヴァテイルを誘拐、あるいは救助し、ヨナの資産により潤った財政は、構成員に多少マシな衣食住を確保することが出来るようになった。

 3384年、イム・フェーナ長老オズバーナが天寿を全うする。次期長老の指名は無く、イム・フェーナ内で長老の座を巡って悶着が発生した。
 結果、アルカ派の大老が新たな長老となり、イム・フェーナは大きく方針転換することになる。シュレリアとも縁深い身内を持つ新長老は、人間に対し宥和的な方策をとることにしたのだ。
 権力争いに敗北したサーラ派などは特に、宥和政策の割を食うことになる。

 3385年頃から、カイズ時代から続いた右巻き政権の、数々の汚職が糾弾され始める。この批判の中心を担っていたのは、後に第二紀にてクラスタ系人種初の大統領となる、飄凱・グラステルンが率いる派閥だった。
 数々の不正を暴かれた政権は解散、総選挙が行われる。飄凱・グラステルンは汚職を裁いた英雄として、鳴り物入りで大統領に当選した。

 飄凱は数々の改革を掲げたが、その方針の芯にはこのような思想が有った。
 「アルトネリコのリソースを正しく配分することが出来れば、この世界の人々は全員幸せで満ち足りた暮らしを送ることが出来る。即ち、レーヴァテイルの徹底的な資源化こそが急務だ」
 飄凱・グラステルンは、男も女も、老人も子供も、障害者も少数民族も救うことを公約に掲げた。レーヴァテイルの屍を使うことによって。

 飄凱政権は、あらゆる自己責任論を沈黙させ、あらゆる福祉を充実させ、あらゆる差別を撤廃し、あらゆる不幸を取り除くことを語った。ただし、レーヴァテイルを除いて。
 この衝撃は非常に大きく、ヨナの元に集まった者でさえも飄凱に共感を示す有様だった。ヨナのような思想を持つ者に対する風当たりは、この年を境に毎年最大風速を更新していく。